★　紀の国の　室の江の辺に　千年に

　　障る事無く　万世に　　かくもあらむと

　　大船の　　思うたのみて　出で立ちの

　　清き渚に　朝凪に　来寄る深海松

　　夕凪に　来寄る縄苔　深海松の

　　深めし子らを　縄苔の　引かば絶ゆとや

　　里人の　行きの集ひに　　泣く児なす

　　鞭取りさぐり　梓弓　弓腹振り起し

　　しのき羽を　　二つ手挟み　放ちけむ

　　人し　悔しも　　恋ほしく思へば


★　きのくにの　むろのえに　せんねんに

　　さわることなく　　よろづよに　かくもあらむと

　　おおふねの　　おもうたのみて　　いでたちの

　　きよきなぎさに　あさなぎに　きよるなはのり

　　ふかみる　ふかめしこらを　なはのり　ひかばたゆとや

　　さとびとに　いきのつどひ　なくこなす

　　むちとりさぐり　あずさゆみ　ゆはらふりおこし

　　しのきはねを　ふたつたばさみ　　はなちけむ

　　ひとし　くやしも　こほしくおもへば


★　紀の国の室の江のほとりに、末長く何の事故もなく

　　、いつまでもこうしていたいと、大船のように

　　頼りに思ってきた。ところが、眼前の清らかな

　　渚に、朝凪に寄って来る深海松や夕凪に寄って

　　来る深海松のように心を深めて恋した子を

　　縄苔、その深松海のように、引っ張れば私と

　　絶えてしまうかと、里人が集まる歌垣で

　　泣いているよ赤子がはっていって物を

　　さぐり取るように鞭を手さぐりし　梓弓

　　の弓腹を振り立て、しのぎ羽の矢を二つ

　　手に挟んで射放つように二人の仲を

　　放してしまった人が、くやしいことや

　　あの子がしきりに恋しく恋しく思われる

　　　　　巻13－3302

[0回]

★　おし照る　難波の崎に　引き上る
　
　　赤のそほ舟　そほ舟に　綱取り懸け　

　　引こづらひ　ありなみすれど　言ひづらい

　　ありなみすれど　ありなみ得ずぞ

　　言はれにしわが身


★　おしてる　なにわのさきに　ひきのぼる

　　あかのそほふね　そほふねに　そほふねに

　　あみとりかけ　　ひこづたひ　ありなみすれど

　　ありなみえず　　いはれにしわがみ


★　日が輝き渡る難波の崎から、川を引いてのぼる

　　朱塗りのふね。朱塗りの舟に網を取り付けて

　　引きつづき　いつも否定するけれど、否定できなくて

　　うわさを立てられてしっまたわが身よ

　　　　　　巻13－3301

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★　おし照る　難波の崎に　引き上る

　　赤のそほ舟　そほ舟に　綱取りかけ

　　引こづらひ　ありなみそすれど

　　言ひづらひ　ありなみすれど

　　ありなみ得ずぞ　言はれにし

　　わが身


★　おしてる　なにわのさきに　ひきあがる

　　あかのそほふねに　そほふねに　あみとりかけ

　　ひこづらい　　ありなみそすれど

　　いひづらひ　　ありなみそすれど

　　あえいなみえずずぞ　いはれにし

　　わがみ

★　見渡せるあちらにあの方がお立ちになり

　　こちらに私は立って、思う身は安らかならず

　　嘆く身は穏やかならず赤塗りの小船も欲しい

　　玉だすきの小楫も欲しい。漕ぎ渡っていっては

　　心を語りものを

　　　　　　　巻13－3300

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★　見渡しに　妹らは立たし　この方に

　　われは立ちて　思ふそら　安けなくに

　　嘆くそら　安けなくに　さ丹漆の

　　小船もがも　玉まきの　小楫もがも

　　玉まきの　漕ぎ渡りつつも　語らたはしも

★　みわたしに　いもらはたたし　このかたに

　　われはたちて　おもふそら　やすけなくに

　　なげくそら　　やすけなくに　さにぬりの

　　こぶねもがも　　たままきの　をかじもがも

　　たままきの　こぎわたりつつも　かたらはしも

★　見渡せるあちらに　あの方がお立ちになり、

　　こちらに私はたって、思う身を安らかなりず

　　赤塗りの小舟は欲しい。玉だすきの小楫も

　　ほしい。漕ぎ渡っていっては、心を語り

　　たいものを

　　　　　　　巻13－3229

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★　よしゑやし　しなむよわぎも　いきけりとも

　　　ともかくのみこそ　あがこひわたりなむよ

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