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★ 妹もわれも 心は同じ 腹へれど
いや懐しく 相見れば 常夏花に
心ぐし めぐしもなしに 愛しけやし
吾が奥妻 大君の 命畏み
あしひきの 山声越え野行き
天離る ひな治めにと 別れ来しの
その日の極み あらたまの年行き返り
春花の 移ろふまでに 相見ねば
いたもすべし 敷栳の 袖返しつつ
寝る夜落ちず 夢には見れど 現にし
直にあらねば 恋しけく 千重に積もりぬ
近くあらば 帰りだにも 打ち行きて
妹が手枕 指し交へて 寝てもこましも
玉ほこの 路はし遠く 関さへに
隔りて あれこそ よしゑやし
縁はあらむそ ほととぎす 来鳴かむ月に
いつしかも 早くなりぬる 卯の花に
にほへる山に 外のみも 振り放け見つつ
近江路に い行き渡る 青丹よし
奈良の吾家に ぬえ鳥の うら嘆しつつ
下恋に 思ひうらぶれ 門に立ち
夕占しつつ 吾を待つと 寝すらむ妹を
逢ひて早見む
★ いももわれも こころはおなじ たぐへれど
いやなつかしく あひみれば とこはつはなに
こころぐし めぐしもなしに はしけやし
あがおくづまの おおきみの みことかしこみ
あしひきのやまこへぬいき あまざかる
ひなおさめにと わかれこし そのひのきはみ
あらたまのとしゆきかへり はるはなの
うつろふまでに あひみねば いたもすべなみ
しきたへの そでかへしつつ ぬるよにおちず
いめにはみれど うつつぬし ただにあらねば
こひしけく ちへにつもりぬ ちかくあらば
かえりだにも うちいきて いもがたまくら
さしかへてねてもこましを たまほこの みちはしとおく
せきさへにへなりてありこそ よしゑやし よしはあらむそ
ほととぎす きなかむつきに いつしかも
はやくなりなむ うのはなの にほへるやまを
よそのみも ふりさけみつつ おふみぢに
いゆきのちたち あおによし ならのわがへに
ぬえどりの うらなげしつつ したこひに
おもいうらぶれ かどにたち ゆうけとひつ
あをまつと なすらむいもを あひてはやみむ
★妻も私も心は同じである。いっしょにいてもますます
心ひかれ、心いぶせく恋に苦しむこともなく愛らしい
、わが心の妻よ。大君の御命令が恐れ多く、あしひきの山を
越え野を行き天遠いひなを治めに来たその日を最後に
あらたまの年も改まり、春の花が散ってゆくまで
逢うこともないので、恋しさは幾重にも積もった
都が近かったらちょっと帰ってでも行って
妹の手枕にさしかわして寝ても来ようものを
玉ほこの路を 遠く関所までに間にへだてていることだ。
ままよ、何か良い手段があるのだろう。
ほととぎすが来て鳴くのは月はいつか
早くなって欲しい。卯の花の美しく
咲く山を外に見ながら、近江路を
辿っていって、青丹ように 美しい
奈良のわが家に渡り到り ぬえ鳥のように
下心に嘆きつつ、心の中に恋に侘しく
思いつつ門にでては 夕占を
問いながら 私を待っているだろう
大伴家持
巻17-3978
いや懐しく 相見れば 常夏花に
心ぐし めぐしもなしに 愛しけやし
吾が奥妻 大君の 命畏み
あしひきの 山声越え野行き
天離る ひな治めにと 別れ来しの
その日の極み あらたまの年行き返り
春花の 移ろふまでに 相見ねば
いたもすべし 敷栳の 袖返しつつ
寝る夜落ちず 夢には見れど 現にし
直にあらねば 恋しけく 千重に積もりぬ
近くあらば 帰りだにも 打ち行きて
妹が手枕 指し交へて 寝てもこましも
玉ほこの 路はし遠く 関さへに
隔りて あれこそ よしゑやし
縁はあらむそ ほととぎす 来鳴かむ月に
いつしかも 早くなりぬる 卯の花に
にほへる山に 外のみも 振り放け見つつ
近江路に い行き渡る 青丹よし
奈良の吾家に ぬえ鳥の うら嘆しつつ
下恋に 思ひうらぶれ 門に立ち
夕占しつつ 吾を待つと 寝すらむ妹を
逢ひて早見む
★ いももわれも こころはおなじ たぐへれど
いやなつかしく あひみれば とこはつはなに
こころぐし めぐしもなしに はしけやし
あがおくづまの おおきみの みことかしこみ
あしひきのやまこへぬいき あまざかる
ひなおさめにと わかれこし そのひのきはみ
あらたまのとしゆきかへり はるはなの
うつろふまでに あひみねば いたもすべなみ
しきたへの そでかへしつつ ぬるよにおちず
いめにはみれど うつつぬし ただにあらねば
こひしけく ちへにつもりぬ ちかくあらば
かえりだにも うちいきて いもがたまくら
さしかへてねてもこましを たまほこの みちはしとおく
せきさへにへなりてありこそ よしゑやし よしはあらむそ
ほととぎす きなかむつきに いつしかも
はやくなりなむ うのはなの にほへるやまを
よそのみも ふりさけみつつ おふみぢに
いゆきのちたち あおによし ならのわがへに
ぬえどりの うらなげしつつ したこひに
おもいうらぶれ かどにたち ゆうけとひつ
あをまつと なすらむいもを あひてはやみむ
★妻も私も心は同じである。いっしょにいてもますます
心ひかれ、心いぶせく恋に苦しむこともなく愛らしい
、わが心の妻よ。大君の御命令が恐れ多く、あしひきの山を
越え野を行き天遠いひなを治めに来たその日を最後に
あらたまの年も改まり、春の花が散ってゆくまで
逢うこともないので、恋しさは幾重にも積もった
都が近かったらちょっと帰ってでも行って
妹の手枕にさしかわして寝ても来ようものを
玉ほこの路を 遠く関所までに間にへだてていることだ。
ままよ、何か良い手段があるのだろう。
ほととぎすが来て鳴くのは月はいつか
早くなって欲しい。卯の花の美しく
咲く山を外に見ながら、近江路を
辿っていって、青丹ように 美しい
奈良のわが家に渡り到り ぬえ鳥のように
下心に嘆きつつ、心の中に恋に侘しく
思いつつ門にでては 夕占を
問いながら 私を待っているだろう
大伴家持
巻17-3978