★　ほととぎす　　なくはぶりにも　　ちりにけり

　　　　さかりすぎらし　　ふじなみのはな

★ほととぎすが、鳴く羽ばたきで散ってしまった。盛りが

　過ぎるらしい。籐波の花よ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　大伴家持

　　巻19－4193

[0回]

★桃の花　紅色に　にほひたる

　面輪の内に　青柳の

　細き眉を　咲みまがり

　朝影見つつ　少女らが

　手に取り持てる　真鏡

　二上山に　　木の暗を

　繁きたにへを　呼び響いて

　朝飛び渡り　夕月夜

　かそきのはらに

　遥遥に　鳴くほととぎす

　立ち潜くと　羽触に散らす

　藤波の　　花懐かしみ

　引きよじて　袖にこきれつ

　染まば染むとも

★もものはな　　くれないいろに　　にほひたる

　おもわのうちに　　あおやぎの　ほそきまゆを

　えみまがり　　　てにとりもてる　まそかがみ

　ふたがみやまに　　このくれを　しげきたにへに　　

　よびとよめて　あさとびおり　　ゆふづくよ

　かそきのはらに　　はろはろに　　なくほととぎす

　たちくくと　　　はぶりにちらす　　ふじなみの

　はななつかしみ　　ひきよじて　　そでにこきれつ

　しまばしむとも

★桃の花が紅色に輝いているような、顔立ちの中に、

　青柳のような細い眉を笑い崩して朝の姿を手に取る

　真鏡二上山に木の下を暗くして木木が繁る谷間を鳴き

　響かせて朝を飛びうつり夕月のかすかな野辺に遥かに

　鳴くほととぎすよ。それがくぐり跳ぶとて花を振って散らす
　　
　籐波の花に心引かれて、引きよせて、袖に扱き入れたことだ

　籐の花色に、袖が染みるのなら染みるのがよいと

　　　　　　　　　　　　　　　　　　大伴家持

　　巻19－4192

[0回]

★　うかわたて　　とらさむあゆを　　しがはたに

　　　われにかきむけ　　おのひしおもはば

★鵜飼をしてお取りになった鮎の

そのひれは送ってください。私の子とを思ってください

　　　　　　　　　　　　　　　　巻19－4191

[0回]

★　しくらがは　　せをたずねつつ　　わがせこは

　　　うかわたたさね　　ここえろなぐさに

★しくら川の瀬を求めつつ、あなたは鵜飼をなさいな。

　ひなの心の慰めに

　　　　　　　　　　　　大伴家持

　　巻19－4190

[0回]

★天離る　ひなとしあれば　彼所此間

　同じ心そ　家離り　　年経ぬれば

　うつせみは　物思繁し　そこ故に

　情慰に　ほととぎす　鳴く初声を

　橘の　珠に合へ貫き　かづらきて

　遊ばふ年も　大夫の　ともなへたてて

　しくらがは　なづさひのぼり　平瀬には

　小網さし渡し　早瀬には　水烏を潜けつつ

　月に日に　然し遊ばね　愛しきわが背子

★あまざかる　　ひなとしあらば　　そここも

　おなじこころそ　　　いへさかり　としへぬれば

　うつせみには　　もおもいしげし　　そこゆへに

　こころなぐさに　　ほととぎす　　なくはつこえを

　たちばなの　　　たまにぬき　　　かづらきて

　あそばふとしも　　ますらをの　　ともなへたてて

　しくらがは　　　なづさひのぼり　　はやせには

　こあみさしわたし　はやせには　　みずどりをかげつつ

　つきにひに　　しかしあそばね　　いとしわがせこ

★天離るなので、そちらこちらも　同じこころのはず

　家を離れて何年かが立ったので、現実の身は物思いが
　
　多いことです。」そこで心やりに　ほととぎすの初声を

　橘の珠といっしょに貫き、かずらにして　遊んでいる、
　
　間にも大夫をさそい立ててしくらがはを水に浸りつつ

　さかのぼり　平瀬では小網を張り渡り早瀬では鵜をもぐらせて

　毎月毎日そうしてお遊びなさい。

　愛すべきわが友よ

　　　　　　　　　　　　　大伴家持

　　巻19－4189

[0回]