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★大王の 任のまにまに
島守に わが立ち来れば
ははそ葉の 母の命は
御裳の裾 つみ挙げかき挙げ
ちちの実を 父の命は
たく綱の 白鬚の上ゆの
涙垂れ 嘆き宣たばたり
鹿児もの ただ独りして
朝戸出の 愛しきわが子
あらたまの 言問ひせむと
惜しみつつ 悲しび坐せ
若草の 妻も子供も
遠近に 多に囲み居
春鳥の 声の吟ひ
白たへの 袖泣き濡らし
携わり 別れかてにと
引き留め 慕ひしものを
天皇の 命畏み
玉ほこの 道に出で立ち
岡の碕 い廻むるごとに
万度 顧みしつつ
遥々に 別れしくれば
思ふそら 安くもあらず
恋付する空 苦しきものを
うつせみの 世の人なれば
たまきはる 命も知らず
海原の 賢き道を
島伝ひ い漕ぎ渡りて
あり廻り わが来るまでに
平けく 親は居まさね
障なく 妻は待たせと
住吉の あは皇神に
幣奉り 祈り申して
難波津に 船を浮け据え
八十楫抜き 水手整えて
朝開き わは漕ぎ出でぬと
家に告げこそ
★おほきみの まけのまにまに
しまもりに わがたちくれば
ははそばの ははのみことは
みものすそ つみあげかきあげ
ちちのみを たくづのの
しらひげのうへゆ なみだたり
なげきのたばく かこじもの
ただひとりして あさとでの
かなしきわがこ あらたまの
としのをながく あひみずは
こひしくあるらむ けふだにも
こととひせむと おしみつつ
かなしびませ わかくさの
つまもこどもも おちこちに
さはにかくみゐ はるとりの
こえのさまよひ しろたへの
そでなきぬらし たずさはり
わかれかてにと したひしものを
おほきみの みことかしこみ
たまほこの みちにいでたち
をかなおさき いたむるごとに
よろづたび かへりみしつつ
はろばろに わかれしくれば
おもふそら やすくもあらず
こふるそら くるしきものを
うつせみの よのひとなれば
たまきはる いのちもしらず
うなはらの かしこきみちを
しまづたひ いこぎわたりて
ありめぐり わがくるまでに
たひらけく おやはいまさね
つつみなく つまはまたせと
すみのえの あがすめかみに
ぬさまつり いのりまをして
なにわにつに ふねをうけすゑ
やそかのぬき かこととのへて
あさひらき わがこぎいでぬと
いえにつげこそ
★天皇の任命のままに、島守として
旅立ちしてくると、ははそはの母君は
御裳の裾をつまみあげてはわが頭を撫で
ちちの実の父君は、栳綱のように、白い
鬚の上に涙を流して嘆き、おっしゃることには
「鹿の子ではないが、たったひとり朝、戸を
出てゆくわが子よ、あらたまの年月長く
逢えないなら、どんなにか恋しいことだろう。せめて
今日の一日でも語りあおう」と別れを惜しみつつ悲しんで
おられると、若草の妻子たちもあちこちと大勢わたしをとりかこみ
白栳の袖を泣き濡らし、手を握り別れられないと、ひきとどめて
慕ったものを。しかし天皇の命令が恐れ多いので、玉ほこの道に
出で立ち、岡の端を廻り行く旅に、幾度も振り返りつつ、遥かに
家を別れて来たので、物思う身は安らかならず恋い慕う身は
苦しいものだ。われわれは現実の世の人間だから、たまきはる
いのちは知りがたい。だから恐ろしい海原の道のりを
島伝いに漕ぎ渡っていってあちこちと廻って帰って来るまで
無事に父母ませ、支障なく妻は待て、と、住吉の航路の神に
幣をささげ、お祈りして難波津に船を浮かべ据え、楫を
一面に貫き、水夫を整えて朝の港を漕ぎ出して行く。
そうであったと家に告げて欲しい
大伴家持
巻20-4408
島守に わが立ち来れば
ははそ葉の 母の命は
御裳の裾 つみ挙げかき挙げ
ちちの実を 父の命は
たく綱の 白鬚の上ゆの
涙垂れ 嘆き宣たばたり
鹿児もの ただ独りして
朝戸出の 愛しきわが子
あらたまの 言問ひせむと
惜しみつつ 悲しび坐せ
若草の 妻も子供も
遠近に 多に囲み居
春鳥の 声の吟ひ
白たへの 袖泣き濡らし
携わり 別れかてにと
引き留め 慕ひしものを
天皇の 命畏み
玉ほこの 道に出で立ち
岡の碕 い廻むるごとに
万度 顧みしつつ
遥々に 別れしくれば
思ふそら 安くもあらず
恋付する空 苦しきものを
うつせみの 世の人なれば
たまきはる 命も知らず
海原の 賢き道を
島伝ひ い漕ぎ渡りて
あり廻り わが来るまでに
平けく 親は居まさね
障なく 妻は待たせと
住吉の あは皇神に
幣奉り 祈り申して
難波津に 船を浮け据え
八十楫抜き 水手整えて
朝開き わは漕ぎ出でぬと
家に告げこそ
★おほきみの まけのまにまに
しまもりに わがたちくれば
ははそばの ははのみことは
みものすそ つみあげかきあげ
ちちのみを たくづのの
しらひげのうへゆ なみだたり
なげきのたばく かこじもの
ただひとりして あさとでの
かなしきわがこ あらたまの
としのをながく あひみずは
こひしくあるらむ けふだにも
こととひせむと おしみつつ
かなしびませ わかくさの
つまもこどもも おちこちに
さはにかくみゐ はるとりの
こえのさまよひ しろたへの
そでなきぬらし たずさはり
わかれかてにと したひしものを
おほきみの みことかしこみ
たまほこの みちにいでたち
をかなおさき いたむるごとに
よろづたび かへりみしつつ
はろばろに わかれしくれば
おもふそら やすくもあらず
こふるそら くるしきものを
うつせみの よのひとなれば
たまきはる いのちもしらず
うなはらの かしこきみちを
しまづたひ いこぎわたりて
ありめぐり わがくるまでに
たひらけく おやはいまさね
つつみなく つまはまたせと
すみのえの あがすめかみに
ぬさまつり いのりまをして
なにわにつに ふねをうけすゑ
やそかのぬき かこととのへて
あさひらき わがこぎいでぬと
いえにつげこそ
★天皇の任命のままに、島守として
旅立ちしてくると、ははそはの母君は
御裳の裾をつまみあげてはわが頭を撫で
ちちの実の父君は、栳綱のように、白い
鬚の上に涙を流して嘆き、おっしゃることには
「鹿の子ではないが、たったひとり朝、戸を
出てゆくわが子よ、あらたまの年月長く
逢えないなら、どんなにか恋しいことだろう。せめて
今日の一日でも語りあおう」と別れを惜しみつつ悲しんで
おられると、若草の妻子たちもあちこちと大勢わたしをとりかこみ
白栳の袖を泣き濡らし、手を握り別れられないと、ひきとどめて
慕ったものを。しかし天皇の命令が恐れ多いので、玉ほこの道に
出で立ち、岡の端を廻り行く旅に、幾度も振り返りつつ、遥かに
家を別れて来たので、物思う身は安らかならず恋い慕う身は
苦しいものだ。われわれは現実の世の人間だから、たまきはる
いのちは知りがたい。だから恐ろしい海原の道のりを
島伝いに漕ぎ渡っていってあちこちと廻って帰って来るまで
無事に父母ませ、支障なく妻は待て、と、住吉の航路の神に
幣をささげ、お祈りして難波津に船を浮かべ据え、楫を
一面に貫き、水夫を整えて朝の港を漕ぎ出して行く。
そうであったと家に告げて欲しい
大伴家持
巻20-4408