×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
PR
★ 春の日の 霞める時に 墨古の 岸に出でて
釣船のとらをふ見れば 古の 事そ思ほゆる
水江の 浦島の子が 堅魚釣り 鯛釣りほこりを
七日まで 家にも来ずて 海界を 過ぎて行くに
海若の 神の女に たまさかに い漕ぎ向かひ
相誂ひ こと成りしかば かき結び 常世に至り
海若の 神の宮の 内の重の 妙なる殿に 携はり
二人入り居て 老いもせず 死にもせずして 永き世に
ありけるものを 世の中の 愚人の 吾妹子に 告げて語らく
須しくは 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと
われは来なむと 言ひければ 妹がいへらく 常世辺に
また帰り来て 今のごと 逢はむとならば このくしげ
開くなゆめと そこらくに 堅めし言を 墨吉に
還り来りて 家見れど 里を見かねて あやしみと
そこに思はく 家ゆ出でて 三歳の間に 垣も泣く
家滅せめやと この箱を 開きてみれば もとの如
家はあらむと 玉くしげ 少し開くと 白雲の
箱より出でて 常世辺に 棚引きぬれば 立ち走り
叫び袖降り 反則び 足ずりしつつ たちまちに
情消失せるぬ 若かりし 膚も皺みぬ 黒かりし
髪も白けぬ ゆなゆなは 気さへ絶えて 後つひに
命死にける 水江の 浦島の子が 家地見ゆ
★ はるのひの かすめるときに すみのえの きしにいでいて
つりふねの とをらふみれば いにしへの ことそおもほゆる
みづのえの うなさかを すぎてこぎゆくに わたつみの
かみのをとめに ことなりしかば かきむすび たづさはり
ふたりいりいて おいもせず しにもせずして ながきよに
ありけるものを よのなかの おろかひとの わぎもこに
つれてかたらく しましくは われはきなむと しましくは
いえにかへりきて ちちははに ことものらひ あすのごと
われはきなむと いひければ いもがいへらく とこのへに
またかへりきて いまのごと あはむとならば このくしげ
ひらくなゆめと そこらくに かためしことを すみのえに
かへりきたりて いえみれば いへもみかねて さとみれど
さともみかねて あやしむと そこにおもはく いえゆいでて
みとせのほどに かきもなく いえうせめやと このはこを
ひらきてみれば もとのごと いへはあらむと たまくしげ
すこしひらくに しらくもの はこよりいでて とこよへに
たなきびきぬれば たちはしり さけにそでふり こいまろび
あしずりしつつ たちまちに こころけうせぬ わかかりし
はだもしわみぬ くろかりし かみもしらけぬ ゆなゆなは
いきさへたえて のちつひに いのちしらける いのちしらける
みずのえの うらしまのこが いへどころみに
巻9-1740 高橋虫麻呂
釣船のとらをふ見れば 古の 事そ思ほゆる
水江の 浦島の子が 堅魚釣り 鯛釣りほこりを
七日まで 家にも来ずて 海界を 過ぎて行くに
海若の 神の女に たまさかに い漕ぎ向かひ
相誂ひ こと成りしかば かき結び 常世に至り
海若の 神の宮の 内の重の 妙なる殿に 携はり
二人入り居て 老いもせず 死にもせずして 永き世に
ありけるものを 世の中の 愚人の 吾妹子に 告げて語らく
須しくは 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと
われは来なむと 言ひければ 妹がいへらく 常世辺に
また帰り来て 今のごと 逢はむとならば このくしげ
開くなゆめと そこらくに 堅めし言を 墨吉に
還り来りて 家見れど 里を見かねて あやしみと
そこに思はく 家ゆ出でて 三歳の間に 垣も泣く
家滅せめやと この箱を 開きてみれば もとの如
家はあらむと 玉くしげ 少し開くと 白雲の
箱より出でて 常世辺に 棚引きぬれば 立ち走り
叫び袖降り 反則び 足ずりしつつ たちまちに
情消失せるぬ 若かりし 膚も皺みぬ 黒かりし
髪も白けぬ ゆなゆなは 気さへ絶えて 後つひに
命死にける 水江の 浦島の子が 家地見ゆ
★ はるのひの かすめるときに すみのえの きしにいでいて
つりふねの とをらふみれば いにしへの ことそおもほゆる
みづのえの うなさかを すぎてこぎゆくに わたつみの
かみのをとめに ことなりしかば かきむすび たづさはり
ふたりいりいて おいもせず しにもせずして ながきよに
ありけるものを よのなかの おろかひとの わぎもこに
つれてかたらく しましくは われはきなむと しましくは
いえにかへりきて ちちははに ことものらひ あすのごと
われはきなむと いひければ いもがいへらく とこのへに
またかへりきて いまのごと あはむとならば このくしげ
ひらくなゆめと そこらくに かためしことを すみのえに
かへりきたりて いえみれば いへもみかねて さとみれど
さともみかねて あやしむと そこにおもはく いえゆいでて
みとせのほどに かきもなく いえうせめやと このはこを
ひらきてみれば もとのごと いへはあらむと たまくしげ
すこしひらくに しらくもの はこよりいでて とこよへに
たなきびきぬれば たちはしり さけにそでふり こいまろび
あしずりしつつ たちまちに こころけうせぬ わかかりし
はだもしわみぬ くろかりし かみもしらけぬ ゆなゆなは
いきさへたえて のちつひに いのちしらける いのちしらける
みずのえの うらしまのこが いへどころみに
巻9-1740 高橋虫麻呂