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★ 大君の 遠い朝廷そ
み雪降る 越と名に負へる
天離る ひなしあへば
山高み 川雄大し
野を広み 草こそ繁き
鮎走る 夏の盛りと
鵜飼が伴は 行く川の
清き背ごとに かがりさし
なづさひ上る 露霜の
秋に至れば 野も多に
丈夫の 伴誘いて
鷹はしも 数多あれど
矢形尾の 吾が大黒に
白塗りの 鈴取り付けて
朝猟に 五百つ鳥たちて
夕猟に 千鳥踏み立て
追ふごとに ゆるすことなく
手放れも をちもかやすき
これを除きて またはあり難し
さ並べる 鷹は無けむと
情には 思ひ誇りて
笑みつつ 渡る間に
醜し翁の 言だにも
われには告げず との曇り
雨の来る日の 鷹狩りすと
名のみ告りて 三島野の
背向かひに見つつ 二上の
山飛び超えて 雲隠り
翔り去にきにと 帰り来て
咳れ告ぐれ 招く由の
そこに無ければ 言ふすべの
たどきを知らに 心には
火さへ燃えつつ 思ひ恋ひ
息衝きあまり けだしくも
逢ふことありやと あしひきの
彼面此面に 鳥網張り
守部を据えて ちはやぶる
神の社に 照る鏡
倭文取り添えて 乞ひ飲みて
吾が待つ時に 少女らが
夢に告ぐらく 汝が恋ふる
その秀つ鷹は 松田江の
浜行き暮らし つな取る
氷見の江過ぎて 多この島
飛び徘徊り 葦鴨の
多集く古江に 一昨日も
昨日もありつ 近くあらば
今二日だみ 遠くあらば
七日のはちを 過ぎやめも
来なむわが背子 懇に
な恋ひそよとそ 夢に告げる
★おおきみの おほのみかどそ
みゆきふる こしとなをへる
あまざかる ひなしあらば
やまたかみ かわとほしろし
のをひろみ くさこししげき
あゆはしる しまつとり
うかひがともの ゆくかわの
きよきせごとに かがりさし
なづさひのぼる つゆしもの
あきにいたれば のもさわに
とりすだけりと ますらをの
ともいざなひて たかはしの
あまたあれども やかたをの
あがおほぐろに しらぬりの
すずとりつけて あさかりに
いほつとりたちて ゆふかりに
ちどりふみたて おふごとに
ゆるすこともなく たばなれも
をちもかやすき これをおきて
またはありがたし さならべる
たかはなけむと こころには
おもひほこりて えまひつつ
わたるあいだに たぶれたる
しこついおきなの ことだにも
われにはつげず とのぐもり
あめのふるひを とがりすと
なにもをのりて みしまのの
そがひにみつつ ふたがみの
やまとびこへて くもがくり
かけりいにきと かえりきて
しはぶれつぐる をくよしの
そこになければ いふすべの
たどきをしらに こころには
ひさへおもひつつ おもひこひ
いづきあまり けだしくも
あふことありやと あしひきの
をてもこのもに となみはり
もりべをすへて ちがやぶる
かみのやしろに てるかがみ
しつにとりそへ こひのみて
あがまつときに をとめらが
いめにつぐらく ながこふる
そのほつたかは まつだえの
はまゆきぐらし つなしる
ひみえすぎて たこのしま
たもとほり あしがもの
すだくふるえに をとつひの
きのふもありつ ちかうあらば
いまふるかだみ とおくあらば
なのかのをちは すぎめやも
きなむわせこ ねもころに
なこひとよそと ゆめにつげつる
★ ここ、天皇の遠い朝廷は、
み雪の降る越を名にもつ、
空の果てのひななので、
山が高くそのゆえに
川は雄大に流れている。
野が広いので、草は一面に
生ひしげる。
そこで、鮎の走りおよぐ真夏は
島に住む鳥の鵜を飼う人々は
流れ清き川の瀬ごとに、篝火を焚いて
水の中に鮎を追いかける。
霧や霜がおりる秋になると、あちこちの
野に鳥が群騒ぐとて、大夫たちは、仲間を
誘って鷹狩りに出かける。さて、鷹狩りの鷹も
多くいるだろうが、矢形の尾の持つ、わが大黒に
銀色の鈴を取り付け、朝狩り・夕狩りにたくさん
の小鳥たちを追い立つのも、手元には戻るのも
自在であった。これ以外に鷹はいないだろうと、
心の中に自慢して喜んでいたのに、やがて何という
きちがいの老人だろう、一言も私に言はず、空が
一面に雲って雨の降る日に、鷹狩りをしますと
形だけ告げて大黒をは三島の野に後にして
二上山を 飛び越え雲のかなたに翔り去って
しまったと、帰って来て咳をしながら言うことよ。
こうなれば呼び戻す方法もないので、心の無念さは
いいようもなく 心の中は火が燃えるように
恋しく思い、嘆きつつけた果てに ひょっとして
あしひきの山のあちこちに島網を張り
見張りを立て神威にふるう神の社にはりっぱな
鏡を倭文へに添えて捧げ、大黒が帰るのを
祈りつつ待っている時に、巫女の娘が
夢の中でこう私に告げた「あなたの慕っている
あのすぐれた鷹は松田江の海岸を飛びくらし
つなを取る氷見の入江を過ぎて多胡の島の上の
飛びまわり、葦べの鴨が鳴き騒ぎ古江に
一昨日と昨日はいました。
早ければもう二日ほど遅くても
七日後にははならないでしょう。
帰って来ますよ。あなた、そんなに
心を尽くして慕いませんように」とこそ、夢の中で
告げた。
大伴池上
巻17-4011
み雪降る 越と名に負へる
天離る ひなしあへば
山高み 川雄大し
野を広み 草こそ繁き
鮎走る 夏の盛りと
鵜飼が伴は 行く川の
清き背ごとに かがりさし
なづさひ上る 露霜の
秋に至れば 野も多に
丈夫の 伴誘いて
鷹はしも 数多あれど
矢形尾の 吾が大黒に
白塗りの 鈴取り付けて
朝猟に 五百つ鳥たちて
夕猟に 千鳥踏み立て
追ふごとに ゆるすことなく
手放れも をちもかやすき
これを除きて またはあり難し
さ並べる 鷹は無けむと
情には 思ひ誇りて
笑みつつ 渡る間に
醜し翁の 言だにも
われには告げず との曇り
雨の来る日の 鷹狩りすと
名のみ告りて 三島野の
背向かひに見つつ 二上の
山飛び超えて 雲隠り
翔り去にきにと 帰り来て
咳れ告ぐれ 招く由の
そこに無ければ 言ふすべの
たどきを知らに 心には
火さへ燃えつつ 思ひ恋ひ
息衝きあまり けだしくも
逢ふことありやと あしひきの
彼面此面に 鳥網張り
守部を据えて ちはやぶる
神の社に 照る鏡
倭文取り添えて 乞ひ飲みて
吾が待つ時に 少女らが
夢に告ぐらく 汝が恋ふる
その秀つ鷹は 松田江の
浜行き暮らし つな取る
氷見の江過ぎて 多この島
飛び徘徊り 葦鴨の
多集く古江に 一昨日も
昨日もありつ 近くあらば
今二日だみ 遠くあらば
七日のはちを 過ぎやめも
来なむわが背子 懇に
な恋ひそよとそ 夢に告げる
★おおきみの おほのみかどそ
みゆきふる こしとなをへる
あまざかる ひなしあらば
やまたかみ かわとほしろし
のをひろみ くさこししげき
あゆはしる しまつとり
うかひがともの ゆくかわの
きよきせごとに かがりさし
なづさひのぼる つゆしもの
あきにいたれば のもさわに
とりすだけりと ますらをの
ともいざなひて たかはしの
あまたあれども やかたをの
あがおほぐろに しらぬりの
すずとりつけて あさかりに
いほつとりたちて ゆふかりに
ちどりふみたて おふごとに
ゆるすこともなく たばなれも
をちもかやすき これをおきて
またはありがたし さならべる
たかはなけむと こころには
おもひほこりて えまひつつ
わたるあいだに たぶれたる
しこついおきなの ことだにも
われにはつげず とのぐもり
あめのふるひを とがりすと
なにもをのりて みしまのの
そがひにみつつ ふたがみの
やまとびこへて くもがくり
かけりいにきと かえりきて
しはぶれつぐる をくよしの
そこになければ いふすべの
たどきをしらに こころには
ひさへおもひつつ おもひこひ
いづきあまり けだしくも
あふことありやと あしひきの
をてもこのもに となみはり
もりべをすへて ちがやぶる
かみのやしろに てるかがみ
しつにとりそへ こひのみて
あがまつときに をとめらが
いめにつぐらく ながこふる
そのほつたかは まつだえの
はまゆきぐらし つなしる
ひみえすぎて たこのしま
たもとほり あしがもの
すだくふるえに をとつひの
きのふもありつ ちかうあらば
いまふるかだみ とおくあらば
なのかのをちは すぎめやも
きなむわせこ ねもころに
なこひとよそと ゆめにつげつる
★ ここ、天皇の遠い朝廷は、
み雪の降る越を名にもつ、
空の果てのひななので、
山が高くそのゆえに
川は雄大に流れている。
野が広いので、草は一面に
生ひしげる。
そこで、鮎の走りおよぐ真夏は
島に住む鳥の鵜を飼う人々は
流れ清き川の瀬ごとに、篝火を焚いて
水の中に鮎を追いかける。
霧や霜がおりる秋になると、あちこちの
野に鳥が群騒ぐとて、大夫たちは、仲間を
誘って鷹狩りに出かける。さて、鷹狩りの鷹も
多くいるだろうが、矢形の尾の持つ、わが大黒に
銀色の鈴を取り付け、朝狩り・夕狩りにたくさん
の小鳥たちを追い立つのも、手元には戻るのも
自在であった。これ以外に鷹はいないだろうと、
心の中に自慢して喜んでいたのに、やがて何という
きちがいの老人だろう、一言も私に言はず、空が
一面に雲って雨の降る日に、鷹狩りをしますと
形だけ告げて大黒をは三島の野に後にして
二上山を 飛び越え雲のかなたに翔り去って
しまったと、帰って来て咳をしながら言うことよ。
こうなれば呼び戻す方法もないので、心の無念さは
いいようもなく 心の中は火が燃えるように
恋しく思い、嘆きつつけた果てに ひょっとして
あしひきの山のあちこちに島網を張り
見張りを立て神威にふるう神の社にはりっぱな
鏡を倭文へに添えて捧げ、大黒が帰るのを
祈りつつ待っている時に、巫女の娘が
夢の中でこう私に告げた「あなたの慕っている
あのすぐれた鷹は松田江の海岸を飛びくらし
つなを取る氷見の入江を過ぎて多胡の島の上の
飛びまわり、葦べの鴨が鳴き騒ぎ古江に
一昨日と昨日はいました。
早ければもう二日ほど遅くても
七日後にははならないでしょう。
帰って来ますよ。あなた、そんなに
心を尽くして慕いませんように」とこそ、夢の中で
告げた。
大伴池上
巻17-4011