★　時ごとに　いや珍しく　八千種に

　　草木花咲き　鳴く鳥の　声も変はらぬ

　　耳に聞き　眼に見るごとに　うち嘆き

　　萎えうらびれ　しのひつつ　ありける間に

　　木の晩の　　四月し立てば　夜隠りに

　　鳴くほととぎす　古ゆ　語り継ぎつる

　　鶯の　現に真子かも　菖蒲草　花橘を

　　少女らが　珠貫くまでに　茜さす

　　昼はめしらしに　あしひきの

　　八峰飛び越え　ぬばたまの

　　夜はすがらに　　暁の

　　月に向かひて　　行き還り

　　鳴き響むれど　　いかに飽き足らむ

★ときごとに　　いやめずらしく　　やちぐさに

　くさきはなさき　　なくとりの　　こへもかはらぬ

　なえうらびれ　　しのひつつ　　ありけりまに

　このばんの　　うづきしたてば　　よごもりに

　うぐひすの　　うつつにまこかも　　あやめぐさ　　

　はなたちばなを　　をとめらが　　たまぬくまでに

　あかねさす　　　ひるはめしらに　　あしひきの

　やつをとびこへ　　ぬばたまの　　よるはすがらに

　あかときの　　　つきにむかひて　　ゆきかへり

　なきとよむれど　　いかにあきたらむ

★四季それぞれに、一層珍しくさまざまに　草木の花が咲き

　鳥の鳴き声も違って思われる。それらを耳に聞き目に見る度に

　、溜息をつき心もしおれて慕って来たところ、木の下が暗くなる

四月になると、夜の闇の中に鳴くほととぎすよ。昔から言い伝えてきた

鶯のまことの子よ。菖蒲や花橘を少女たちが珠に通す頃まで

茜いろの昼は一日中あしひきの山々よ飛び越え、ぬばたまの夜は

一晩中鳴きとおして、夜明けの月に向かって飛びかけり、鳴き

しきるのだけれども、　飽きることとてない

　　　　　　　　　　　　　　　大伴家持

　　巻19－4166

[0回]