★　海神の　神の命を　御櫛筍に

　　貯ひ置きて　斎くとふ　珠に益さりて

　　思へりし　　吾が子にはあれど

　　うつせみの　世の理と

　　大夫の　　引きのまにまに

　　しな離る　　越路を指して

　　延ふ蔦の　　別れにしより

　　沖つ波　とおむ眉引

　　大船の　ゆくらゆくらに

　　面影にもとな見えつつ

　　かく恋ひば老いづく吾が身

　　けだし堪けむかも

★うみがみの　まいのみことの　みくしげに

　たくわひおきて　いつくといふ　たまにまさりて

　おもへりし　　あがこにはあれど　うつせみの

　よのことはりと　ますらをの　　ひきのまにまに

　しなざかる　　こしぢをさして　はふつたの

　わかれにしより　　おきつなみ　　とおむまよひき

　おおふにのゆくらゆくらに　　おもかげにもとなみえつつ

　かくこひばおうづくあがみ　　けだしたけむかも

★海の神様が御櫛筍に貯えておいて大切にすると言う以上に、

　いとおしんでいたわが子であったが、現実の世の道理として

　大夫の招きにしたがって、しな離る越の国をさして

　伸びる蔦の先のように別れてから、沖の波のたわみの如き

　眉が、大船のようにゆらゆらと面影となって、むやみに

　見えつづけ、このように恋しく思っていたら、老いゆこうとする

　わが身は　果たして堪えられるだろうかなあ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　大伴家持

　巻19－4220

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