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★ 臣の女の 櫛笥に乗れる 鏡なす 御津の浜辺に さ丹つらふ 紐解き放けず 我妹子に
恋ひつつ居れば 明け暗の 朝霧隠り 鳴く鶴の 哭のみし泣かゆ 我が恋ふる
千重の一重も 慰もる 心もありやと 家のあたり 我が立ち見れば 青旗の 葛城山に
たなびける 白雲隠る 天さがる 鄙の国辺に 直向かふ 淡路を過ぎ 粟島を
背向に見つつ 朝凪に 水手の声呼び 夕凪に 楫の音しつつ 波の上を い行きもとほり
稲日都麻 浦廻を過ぎて 島じもの なづさひ行けば 家の島 荒磯の上に うち靡き
繁に生ひたる なのりそが などかも妹に 告らず来にけむ
★ おみのめの くしげにのれる かがみなす みつのはまへに さにつらふ ひもときさけず
わぎもこに こひつつをれば あけぐれの あさぎりごもり なくたづの ねのみしなかゆ
あがこふる ちへのひとへも なぐさもる こころもありやと いへのあたり わがたちみれば
あをはたの かづらきやまに たなびける しらくもがくる あまざかる ひなのくにへに
ただむかふ あはぢをすぎ あはじまを そがひにみつつ あさなぎに かこのこえよび
ゆうなぎに かじのとしつつ なみのうへを いゆきさぐくみ いはのまを いゆきもとほり
いなびつま うらみをすぎて しまじもの なづさひゆけば いえのしま ありそのうへに
うちなびき しじにおひたる なのりそが などかもいもに のらずきにけむ
★ 宮仕えの臣下の女の櫛笥(女性にとって大切な櫛を入れる箱)に載っている鏡のように
見る、御津の浜辺に、赤色の美しい紐を解くこともしないで、わが妻を恋しく思っていると
夜明けの薄暗い闇の朝霧の中で、鳴く鶴のように、声をあげて泣いてしまう。
私が大切に思っている千分の一でも、慰められる心があるだろうかと、故郷の家のあたりを
私が立ち望むと、木々が青々と繁る葛城山にたなびく白雲に隠れてしまっている。
天さかる遠く遥かな鄙の国のあたりに真っ直ぐ向かい、淡路島を過ぎて、粟島を背中に
見ながら、朝の凪には、漕ぎ手が声で励ましつつ、夕凪には、楫の音を響かせつつ
波の上を行きなやみながら、岩の間を巡り行き稲日都麻の浦の辺りを過ぎて
水鳥のように、苦しみながら進んで行くと、家島(地名)の荒磯の上に、靡くように
びっしりと生えている(なのりそ)、そのなのりそではないけれど、どうして妻に別れの言葉を
告げずに来てしまったのだろうか・・・・・
巻4-509 丹比真人笠麻呂(たぢひのまひとかさまろ)
福岡県に下ることになった官吏が、別れて来た妻の事を思って作った長歌です。