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★ 栲綱の 新羅の国ゆ 人言を よしと聞かして 問ひ放くる 親族兄弟 無き国に
渡り来まして 大君の 敷きます国に うち日さす 京しみみに 里家は 多にあれども
いかさまに 思ひけめかも つれもなき 佐保の山辺に 泣く児なす 慕ひ来まして
布細の 宅をも造り あらたまの 年の緒長く 住まひつつ 座ししものを 生ける者
死ぬとふことに 免かれぬ ものしあれば 憑めりし 人のことごと 草枕 旅なるほどに
佐保河を 朝川渡り 春日野の 背向に見つつ あしひきの 山辺を指して
くれくれと 隠りましぬれ 言はむすべ せむすべ知らに たもとほり ただ独りして
白栲の 衣手干さず 嘆きつつ わが泣く涙 有馬山 雲ゐたなびき 雨に降りきや
★ たくつのの しらきのくにゆ ひとごとを よしときかして とひさくる うからはらから
なきくにに わたりきまして おおきみの しきますくにに うちひさす みやこしみみに
さといへは さはにあれども いかさまに おもひけめかも つれもなき さほのやまへに
なくこなす したひきまして しきたへの いへをもつくり あらたまの としのをながく
すまひつつ いまししものを いけるもの しぬとふことに まぬかれぬ ものしあれば
たのめりし ひとのことごと くさまくら たびなるほどに さほかはを あさかはわたり
かすがのを そがひにみつつ あしひきの やまべをさして くれくれと かくりましぬれ
いはむすべ せむすべしらに たもとほり ただひとりして しろたへの ころもでほさず
なげきつつ わがなくなみだ ありまやま くもゐたなびき あめにふりきや
★ たくづなの 新羅の国から、よい国だという評判を良い事とお聞きになって、遠く安否を
思いやる親族兄弟もいないこの国にお渡りになられ、大君のお治めになられるこの国には
日の照らす京にぎっしりと、里も家もあるけれど、どのようにお思いに成られたか、縁もゆかり
もない佐保山の近くに、母を求めて泣く子どものように、慕っておいでになり、敷栲を家も造り
新玉の年長くお住まいになられておいでになられたものを、生きて居るものは、必ずや死ぬ
ということを免れないものであるので、私が頼りにしている人が全てみな、草を枕の旅に出て
いる間に、佐保川を朝に、川を渡って、春日野を背後に見ながら、あしひきの山辺に向かって
心も暗く隠れてしまわれた。どう言ったらいいのか、どうしたらいいのか、あちらこちらと彷徨い
たった一人で、白妙の喪服の衣の袖を濡らしたままで、嘆きながら、私が泣く涙は、有馬山の
雲とたなびいて、雨となって降ったであろうか・・・
巻3-460 大伴坂上郎女
坂上郎女の母である、石川郎女が持病で湯治に出かけていたときに、尼理願の死に目に
会えず、娘である坂上郎女が、留守番をしていて、柩の葬送をすっかりなし終えた。そこで、
この歌を作って、有馬温泉に贈り届けた・・・・と、あります。しっかりした、娘ですね。
挽歌がまた、素晴らしいですね。