★　大汝少彦名の　神代とより　言ひ継ぎけらく

　　父母を見れば　尊く　　妻子を見れば

　　愛しくめぐし　　うつせみの　　世の

　　理と　かく様に　　言ひけるものを

　　世の人の　　言立ちちさの花　　咲ける花に

　　はしきよし　　その妻の児と　朝夕に　笑みみ笑まず

　　うち嘆き　　語りけまくは　　永久に

　　かくしもあらめや　　天地に　神言寄せて

　　春花の盛りもあるかと　　待たしけむ　時の盛りそ

　　離れ居て　嘆かす妹が　何時しかも　使の来むと

　　待たすらむ　心さぶしく　南風吹き　雪けまさりて

　　射水川　　流る水沫の　流る水沫の　寄辺なみ

　　左夫流る　　紐の緒を　いつがり合ひて

　　にほ鳥の　二人ならびゐ　奈吾の海の

　　沖を深めて　さどはせる　君が心の

　　術も術なさ

★　おおなむち　　すくなひこなの

　かみよより　　　いひつぎけらく

　ちちははをみれば　　たふとく

　めこみれば　　　かなしくめぐし

　うつせみの　　よのことわりと

　かくさまに　　いひけるものを

　よのひとを　　たつることだて

　ちさのはな　　さけるさかりに

　はしきよし　　えおのつまのこと

　あさよひに　　えみみえまずも

　うちなげき　　かたりけまくは

　とこしへに　　かくしもあらめや

　あめつちの　　かみことよせて

　はるはなの　　さかりもあらむと

　またしけむ　　ときのさかりそ

　はなれいて　　なげかすいもが

　いつしかも　　つかひもこむと

　こころさぶしく　みなみふき

　ゆきけまさりて　　いみずがは

　ながるみなわの　　よるへなみ

　さぶるそのこに　　ひののをの

　いつがりあひて　にほどりの

　ふたりならびゐ　なごのうみの

　おきをふかめて　さどあはせる

　きみがこころのすべもすべなさ

★大汝の神や少彦名のおられた

　神代以来言い伝えてきたことには「

　父母を見ると尊く、妻子を見ると

　かわいく」いとしい。それが現世の

　理くつである」と、そう言ひ伝えて

　きたものを、世間の人がしばしば口にする

　誓いだが、ちさの花の真っ盛りとのように

　いとしい妻と朝夕に喜びや悲しみも分かちつつ

　嘆息して、語ったことには「いつまでも　こう

　貧しくはいまい。天地の神々のお力で、春の

　花のように栄える時が来よう」と、いいつつ

　あなたが待っていた盛りが今ではないか。遠く

　離れて都で待ちわびておられるあなたの妻は、

　使いが来るのが遅いと待っておられるのだろう。

　その気持を寂しくさせて、春の南風が吹くに連れて

　雪解け水をます射水川に流れる水沫のように寄るべなく寂しい、

　親しみ合い、にほ鳥のように　二人連れ立ち、奈五の海の

　沖ほどにまよってしまっておられる。その気持ちがせんすべもないことよ

　　　　巻18－4106

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