★　珠洲の海人の　沖つ御神に

　　い渡りて　　潜き採ると言ふ

　　鰒玉　　　五百ちもがも

　はしきよし　　妻の命も

　衣手の　　別れし時よ

　ぬばたまの　　夜床片さり

　朝寝髪　　　搔きもけづらず

　出でて来し　　月日数みつつ

　嘆くらむ　　心慰に

　ほととぎす　来鳴く五月の

　菖蒲草　　　花橘に　

　貫き交へ　　かづらにせよと

　包みて遣らむ

★すすのあまの　　おきつみかみに

　いわたりて　　かずきとりといふ　

　あはびたま　　　いほちもがも

　はしきよし　　つまのみことも

　ころもでの　　わかれしときよ

　ぬばらたまの　　よどこかたさち

　あさねがみ　　　かきもけづらず

　いでてこし　　　つきひよみつつ

　なげくらむ　　こころなぐさに

　ほととぎす　　きなくさつきの

　あやめぐさ　　はなたちばなに

　ぬきまじへ　　　かづらにせよと

　つつみてやらむ

★珠洲の漁師が　沖遠い神の島に渡って

　もぐっては採ると言う鰒の珠を五百個も

　ほしい。いとしい妻と袖を分かって以来

　ぬばたまの夜の床も独りで一人片端に寝て

　朝の寝乱れ髪を櫛ですくこともなく

　私が旅立って来た月日を数えながら

　嘆いているだろう妻の慰めに、ほととぎすが

　来て鳴く菖蒲草や花橘に交え通して

　かづらにするように　鰒玉を包んで贈ろう

　　　　　　大伴家持

　　　巻18－4101

[0回]